ハミ
(こういう時は、極力動かない方が良いって旅人さん言ってたっけ)
語り部
『夢喰姫はその場にとどまり私の迎えを待つことにしました。
立っているのも疲れてしまうので、直ぐそばの広場まで移動してベンチに腰かけていると、街行く人たちに自然と目が行きます。
城下とは異なる雰囲気に期待と同時に不安も覚えたのでしょう、誰も自分の事を知る人が居ない事になんだか寂しくなって俯いてしまいました。
暫くそうしていると、目の前に人影が止まり待ち人かと思い顔を上げた先に居たのは、見知らぬ青年達でした』
男A
「きみ、一人? この街の子じゃないよね?」
男B
「暇してるならさ、俺らと遊びに行かない?」
ハミ
「わ、私、人を待ってて……」
男B
「どれくらい時間あるの? ちょっとでいいからさ、俺らと遊ぼうよ」
ハミ
「逸れた私を探してると思うから……ここを離れるのは……」
男A
「へぇ、迷ったんだ。この街裏道が多くて迷いやすいからね〜」
男B
「あ、だったらさ、俺ら色んな場所案内してあげるよ」
男A
「それ名案!」
ハミ
「でも……」
男A
「行きたい場所あったら案内してあげる。どっか無い?」
ハミ
「本当に、案内してくれるの…?」
男B
「勿論!」
ハミ
「その、この街に来たばかりで、宿を探していて……。もしかしたら私の連れも先についてるかもしれないから……」
男B
「宿屋ならすぐそこだ、ついてきてよ」
ハミ
「あ……」
語り部
『立ち上がった夢喰姫の手を男が掴むと、強引に引っ張られました。その行動を不審に思った夢喰姫は慌てて掴む手を解こうとします』
ハミ
「あの、やっぱり私此処で待つことにするわ、ごめんなさい」
男A
「心配しなくても此処から遠くないから大丈夫だよ」
男B
「案内するだけだし身構えないでよ」
ハミ
「っ! 放してっ!」
語り部
『夢喰姫が声を荒げると、聞き覚えのある声が聞こえてきました。それは……』
マク
「ハミ姫……? っどうして此処に」
ハミ
「マク王子……?」
マク
「貴方がた、ハミ姫に何をしているんですか?」
男A
「ハミ姫って……もしかしてお姫様!?」
男B
「うわっ、お姫様なんて初めて見た」
語り部
『慌てて掴んだ手を離すと、青年たちはバツが悪そうに二人の前から居なくなります。
険しい顔のマク王子は、彼らが戻ってこないことを確認すると、夢喰姫に向き合いました』
ハミ
「ありがとう、マク王子」
マク
「…………ハミ姫、どうして此処に居るんですか?」
ハミ
「それは……」
語り部
『夢喰姫は迷いましたが、助けてくれたマク王子へ包み隠さず自分の考えを告げることにしました。
怒られてしまうだろうかと、お城へ戻るよう言われるのではないかと構えていると、マク王子は夢喰姫の両手を優しく包み込みました』
マク
「貴女の気持ちを尊重したい……けれど、それでもやはり心配なのです。今回は僕が通りかかったから何事もなく済みましたが、次はそうはいかないかもしれない。貴女に何かあってからでは遅いんです……。ですから、お城へ返りましょう」
ハミ
「私、戻りたくないわ……」
マク
「ハミ姫、どうか僕の我儘を聴いてはくれませんか?」
ハミ
「どうして……マク王子はどうしてそんなに私を気にかけてくれるの?」
マク
「それは……」
語り部
『マク王子は寂しそうな顔で、「長話になりますが、それでも良ければ」と言って、夢喰姫と広場のベンチに腰掛け口を開きました。
それは、彼の幼い頃のささやかな思い出。
出来の良い兄と、身体の悪い妹に挟まれって育ったマク王子は、誰からも顧みてもらえることが御座いませんでした。
そんなくすんだ日々を過ごす或る日、遠縁である夢喰姫と女王様が彼の国を訪れました』
マク
「貴女と出会って、僕の世界に光が差したのです」
ハミ
「マク王子……」
ハミ
(気持ちは嬉しいし、伝わってくるけれど、何も憶えてないのが申し訳ないわ……)
マク
「……憶えてないのも無理は在りません。とても幼い頃でしたから」
ハミ
「ごめんなさい……」
マク
「貴女の為に僕が今出来る事は、あの魔法使いさんより先に宝石を見つけて、貴女を守るという事だと思ったんです。でもそれには、貴女の安全が第一……貴女の身に何かあったら、意味が無いのです。僕の気持ちを分かってはくれませんか?」
ハミ
「そう、よね……ごめんなさい……。勝手にお城を抜け出して、きっとみんなも心配してるわよね……」
マク
「お城までは僕が送りましょう。早く帰って、女王陛下も安心させてあげて下さい」
ハミ
「え……でもそれじゃあマク王子も一旦戻ることになっちゃうわ!」
マク
「貴女を一人で帰すわけにはいきませんから」
語り部
『マク王子が立ち上がり、夢喰姫に手を差し伸べます。
彼女がその手を取ろうとした時、夢喰姫を探してきた道を戻ったいた私はようやくその姿を見つけ、声を掛けました』
旅人
「お帰りになるというのでしたら、私がお城までお送りしましょう」
ハミ
「旅人さん!」
マク
「貴方は確か、ハミ姫のお誕生日パーティーに居た……」
旅人
「夢喰姫のご希望でここまでご案内しましたから、戻るというのであればその付き添いをすべきは私でしょう。それに、あなたは一刻も早く、宝石を探した方が良いでしょうから」
マク
「……貴方を、信用しても?」
旅人
「信頼に足る証拠は、残念ながら御座いません」
ハミ
「マク王子、旅人さんは信頼できるいい人よ。此処までの道のりでも私のペースに合わせてくれたし、いっぱい助けてくれたもの!」
マク
「ハミ姫が、そういうのであれば……信じたいと思います」
旅人
「それはどうも」
語り部
『私へ夢喰姫を託し、マク王子は宝石を探して先へ進みました。その背中を見送る夢喰姫の背中は少し悲し気です。
無理も御座いません、あまりに健気に、お城へ戻るよう訴えられてしまったのですから、マク王子の為にもお城へ戻らなければいけないと思っているからです』
旅人
「さ、行きましょうか」
ハミ
「ええ……。って、旅人さん、そっちは帰り道じゃないわ」
旅人
「はい、そうですね?」
ハミ
「何処に行くの?」
旅人
「宿屋です」
ハミ
「でも、帰らないと」
旅人
「帰りますよ。けれど、寄り道してはいけないとは言われてませんから」
ハミ
「……!!」
旅人
「御伽噺の宝石を鑑賞してから帰っても、きっと問題ないでしょう」
ハミ
「旅人さん、あなた本当は悪い人なのね」
旅人
「善い人でしたら、此処まであなたをお連れしていませんからね」
ハミ
「ふふっ、ありがとう! 旅人さん!」
語り部
『こうして夢喰姫は、帰る前の寄り道をすることになりました。
一先ずは宿屋で、今日の出来事とマク王子との過去についてのご相談を私が聴くことになるのは、言うまでも御座いませんね』
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