ハミ
「……もちろん、帰ったら話し合いはするわ。でも、私が自分の力で宝石を持ち帰ったら、きっと、話を聞いてもらいやすいと思うの」
魔人
「はぁ……どうあっても宝石を持ち出したい訳だなぁ、お姫様は。なあ、お前からもなんか言ってやれよ」
旅人
「私ですか?」
魔人
「そうそう。俺なんか持って帰っても良いこと無いぜってことをガツーンとよぉ」
ハミ
「旅人さんからも、魔人さんを説得して! 私にはどうしても宝石が必要って事!」
旅人
「そうですね……でしたら、こうしましょうか」
魔人
「お、おっとぉ? ちょっとちょっとちょっとちょっと、ちょーーーーっと待ってくれ、何だその物騒なポーズは」
旅人
「手近な石を拾ったので振り上げてます」
魔人
「俺は説明を要求してんじゃねーよ」
ハミ
「旅人さん何をするつもり!?」
旅人
「夢喰姫の望みも、宝石の魔人の訴えも、私にとってはどちらも等量に正しいことだと思いましたので、宝石を砕こうかと」
魔人
「ヒッ!?」
ハミ
「そんな事したら元も子もないわ!」
魔人
「そそそそそぉだぞ!! 落ち着け!! 暴力反対!!」
旅人
「妙案だと思ったのですが」
魔人
「どこがだよ!!」
旅人
「宝石が無くなれば、取り合って争うこともないでしょう。上手く砕けば、欠片を拾って持ち帰ることも出来ますし」
ハミ
「それもそうね……」
魔人
「ぎゃーー!! 人でなし!! そんな事したら俺がただじゃすまないんですけどぉ!!!!」
ハミ
「宝石に傷が付いたらやっぱり痛いのかしら?」
魔人
「痛いとか痛くないの前に砕かれたら死んじゃうからな!!」
ハミ
「なんだか可哀想だわ……」
旅人
「此処は心を鬼にして砕きましょう。やるのは私ですから、夢喰姫が気負う必要は御座いませんよ」
魔人
「どうして!!! お前は!!! 俺を砕きたがるんだ!!!」
旅人
「此処であなたを砕かなければ、あなたは此処で眠り続けるでしょう。そうすれば、いずれ同じ過ちを繰り返しかねません」
魔人
「あっ、ちょ、ストップストップ、ごめんなさい、大人しく言うこと聴きますから砕くのだけはホントにやめて」
旅人
「……………」
ハミ
「旅人さんちょっと楽しそうね……」
魔人
「楽しみながら命を潰そうとしないでくれます!!!??? わーったから、これで勘弁して!!」

語り部
『魔人が言うと、金属を弾くような高い音と共に、台座に置かれた宝石がほんの少し欠け落ちました』

魔人
「ほんの一片だから、望みを叶えるっつー力は無い、っつうか、望みを叶えちゃるのは俺であって宝石じゃねーから、それはただの綺麗な石ころだ。そいつがあれば、お姫様は問題ないんだろ。とっとと帰ってくれよ」
ハミ
「あ、ありがとう! 魔人さん!」
旅人
「………ですが私は」
ハミ
「魔人さんもああいってるし、砕くのはやめてあげましょ、旅人さん」
旅人
「誰か邪なものの手に渡らないことを、祈るばかりですね」
魔人
「俺がそう簡単に脱引きこもりすると思ってるなら大間違いだぜ。いやー、しかし砕かれるとは思わなかったぜ、生命の危機に焦った焦った」
旅人
「夢喰姫のお話した通り、宝石を探しているものが3人居ます。あの方たちも、一筋縄ではいかないと存じますよ」
魔人
「なら、入り口を閉じるか。お前ら…どっちでもいいや、手を貸してくれ」
ハミ
「閉じるってどういう事?」
魔人
「文字通り、此処に来るまでの道を閉じて、人が入れないようにする。つっても、俺は人の望みを叶えることしかできないから、こうして誰かに願ってもらわなきゃいけないけどな」
ハミ
「そんな事が出来るの!?」
魔人
「俺にかかれば朝飯前ってな」
ハミ
「でも、道を閉じちゃったら私たちが帰れないわ」
魔人
「帰りの心配ならいらねぇよ。俺がちゃあんと送ってやるからさ」

語り部
『魔人は夢喰姫と私の手を取ります。そして魔人に言われるままの光景を思い浮かべると、近くで地響きのような音が鳴りました。それはこの場所の道が閉じた音なのでしょう。
 そして今度は、言われる儘にお城の景色を思い浮かべます。目を閉じるように言われ、私と夢喰姫はそっと瞼を閉じました』

魔人
「……っつう訳で、もう二度と会う事は無いな。あばよ、お姫様」


語り部
『程なくして、夢喰姫が目を開けると、其処は見知ったお城の前。宝石と魔神の姿はそこにはありませんでした。
 事態が呑み込めずに立ち尽くしていると、お城の兵士が夢喰姫の姿に気付き駆け寄ります。無理もありません、誰にも告げずに抜け出して、皆大層心配していましたから。
 連れられるままに城内に入り、広間へと向かうと、其処には不安と怒りと安堵と喜びが混ざった表情の女王様が居りました』

女王
「ハミっ!!! 嗚呼、無事でよかった――!!」
ハミ
「お母さん……」
女王
「勝手に居なくなって…!! 皆心配したのよ!!」
ハミ
「ごめんなさい……」
女王
「あなたが、娘を此処まで連れてきてくれたのね。ありがとう、旅人さん」
旅人
「いいえ、夢喰姫を連れまわしてしまったのも私ですから。……それより女王様、夢喰姫からお話があるのです」
女王
「? どうしたの、ハミ?」
ハミ
「っ! ……あ、あのね、お母さん、これ――」
女王
「これは……小さな石?」
旅人
「私がお話した、御伽噺の宝石です。夢喰姫は、女王様の仰った結婚に反対する為に、自分の力で誰よりも先に宝石を持ち帰ったのです」
女王
「まあ! 本当なの?」
ハミ
「うん……。勿論、旅人さんの案内と手助けがあったからなんだけどね! でも、これでお母さんも考え直してくれるでしょ?」
女王
「そう、そうね……」
ハミ
「お母さん?」

語り部
『女王様は何事か言葉を零しながら熟考をしました。すると私の方へ向き直り一言』

女王
「旅人さん」
旅人
「はい」
女王
「不束者ですが、娘をお願いします」
旅人
「はい?」
ハミ
「ななっ何言ってるのお母さん!!」
女王
「旅人さんは真の御伽噺をした誠実さもあるし、あなたの冒険を支えてくれた逞しさもある。それに何より、あなたと一緒に私の言葉通り宝石を持ち帰ったじゃない! 言うこと無しのいいお婿さんだわ!!」
ハミ
「た、旅人さんとはそういうのじゃないの!! ねえ!」
旅人
「そういうお話でしたら、私はご遠慮させていただきます」

語り部
『身の危険を感じ、そそくさと退去しようとした私の腕を、女王様はすかさず掴み、放してくれそうにはありません』

女王
「待ってちょうだい! まだ行かないで! ハミとの冒険のお話を聞かせて! それに、何にしてもあなたにはハミを送り届けてくれた事への褒美を与えなくては!!」
旅人
「け、結構です!! 私のことはお構いなく!!」


語り部
『一国の女王様を振りほどくことが出来なかったのは、お察し頂けるでしょうか。
 その後私は、結局流されるままに御馳走を頂き、たっぷりと夢喰姫の冒険譚を語り聞かせ、
 夜の帳が下りると、そっとお城から夜逃げする羽目になることは、目に見えている事でしょう。
 数日経つと、宝石を探しに出たメイ王子、マク王子、魔法使いの三人がそれぞれ戻ってきましたが、三人ともが「宝石は無かった」と言いました。
 女王様の口から私の件について語られ、一足遅かったことに、三人は落胆した様子です。
 こうして、夢喰姫の小さな冒険の物語は幕を閉じました。
 ――けれどこの後、夢喰姫に厳しい花嫁修業が待っているということと、まだ暫く私の逃亡生活が続くということは、また別のお話です』


■おしまい。

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